平野啓一郎「ある男」はタイトルのシンプルさほど内容はシンプルではない

「正人」の日記

映画になったことで関心を引かれたことは素直に認めよう。書店の平棚に積まれアピールされていた文庫を手に取り、読み終わるまで時間がかかってしまった。

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平野啓一郎さんの本は数冊読んでいたから、平野さんの文章に抵抗があるわけではない。つい最近も「私とは何か」を読んだばかりだ。ただ小説の内容がイマイチその時の読みたい雰囲気に合わなかったから今まで手に取らなかったからだろう。

さて、結局今回読んでみて時間はかかったが、結果的にとても面白かった。誰にでもある(?)変身願望、特に自分にある変身願望が触発され、今の自分と違う何かに代わってみることができるなら代わってみたいと切に思った。
そもそも国籍を変えるだとか、移住をするだとか、そんなことを考える傾向のある人間はこの手の思考に共感を覚えるのではないだろうか。

そもそも自分とは何たるやを考える際にアイデンティティーを今や主に考えるのが一般的だが、その人の「過去の」アイデンティティーに縛られ、「家族の」アイデンティティーに縛られ、「国の」アイデンティティーに縛られるのは如何なものなのだろう。
変わってはいけないものなのだろうか?
変えてはいけないものなのだろうか?
この小説の場合、戸籍問題を通して家族の在り方や個人のアイデンティティーの問題を問うている、ように感じた。
「愛」の在り方も…。
愛の在り方については、自分は男だから男感情で読みがちなので、100%客観的は無理だ。

どの点がそれぞれの人の胸に響くかは芸術作品の常であるから、異論は議論しない。

平野啓一郎さんの文章は、若い人達にどのように受け入れられているのだろうか。少し興味がある。
この小説でも数センテンスの描写の中で難解な語句を使って表現する平野節が炸裂しているが、明らかに流行作家の真逆を行く作風でどのように捉えられているのか興味深い。売り上げ数という数字だけじゃなく、若い人の「声」を聞いてみたい。

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