読書感想「生命式」は、短編集としてはいいが、「生命式」はいかがであろう。

「正人」の日記

生命式人口が急激に減り、人類は滅びるのでは、という不安感が世界を支配する時代。死んだ人間を食べながら、男女が受精相手を探す「生honto.jp

村田沙耶香の短編集「生命式」を読んだ。
作者の選出による短編集だそうだ。
となると、かなり作者本人の選択意図が含まれた一つの作品とみて読んだ方がいいようだ。
*以下ネタバレを含む。

読むと「生命」「食」「性」が中心に書かれた作品集だ。

ただし、どの作品も所謂「普通」の捉え方ではない。今まで見たこともない、考えたこともない、出会ったこともない、作者なりのテーマの捉え方に一作品ごとに戸惑う。作者の目を通した世界観に新鮮さと共に驚きを覚え、その唯一無二の才能が証明できていると思う。

ただ全ての作品においてに賛同するかというと必ずしもそうではなく、「魔法のからだ」「街を食べる」は、ボクのお気に入りでとてもいいと思うし、作者の無理のない個性が出ているようで、いい短編だと思う。

逆に「生命式」や「素敵な素材」は意識しすぎたテーマ設定と、短編に合わない状況設定に無理やり感を感じてしまい、話に入り込めない。「生命式」をキチンとテーマとして問いかけたいなら長編にして状況を丁寧に作りこむべきじゃないだろうか。(偉そう)
何しか急すぎて色々と突っ込みどころがあると、物語に集中できないのだ。

片や、「魔法の・・・」や「街を・・・」は既に皆が日常で想像し得る設定からの短編なので、入りやすい。とはいえ、「街を・・・」の視点は同じ街を(一般論として)住んでいていながら、作者の住んでいる街と我々の住む街の違いと、違いを指摘された後の街の見え方に新鮮さを覚え、短編でありながら途端に読む前と読んだ後の街が見違えるような変容を覚えることに素晴らしさがあると思う。
でも、勝手に察するに作者からすれば、普通過ぎて面白くない設定なのかもしれない。



着想がオリジナルなので、村上龍のような「売れること」を意識した本を書くのではなく、時間をかけて自分のために本を書くようであってほしい。
見返りを一切求めないパトロンのような人が芸術ではやはり必要ではないだろうか。

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