映画自評:映画『動物界』(2024) 評価と考察: 観る人を嗅ぎ分ける問題作の真意

「正人」の日記

『動物界』: 人間と動物の境界線を問う衝撃作

異種混合物譚、とでもいうのだろうか、映画にはそういった類のジャンルがあるような気がする。
この映画「動物界」は紛れもなく人間と動物の混合物譚である。
ネタバレ以前のこの段階では予告編以上のことは語らないが、『シェイプ・オブ・ウォーター』や『ボーダー 二つの世界』をイメージしていただければこの作品世界に相当近づける。ハリウッド系のそれではない。

特に人間の持つ「純愛」に関して言えば上記に挙げた2作は今作品はかなり近い。上記に挙げた2作を好きな方はこの作品は気に入るに違いない。

フランス発ヒット作『動物界』:  邦題選択の謎

フランスでは大ヒットだったそうだが日本ではあまり宣伝がされていないせいもあってか、館内はまばらだった。
日本ではどうも偏りを感じてしまうのはボクだけか…。

しかし、今回に限ってタイトルを「動物界」とだけにしたのはなぜか。普段なら日本語タイトルに変換するときに意訳をするか、タイトルと余計な説明文を加えるかするのに今回は「動物界」とだけで済ませている。この辺も内容が分かり辛く集客できなかった理由ではなかったのではなかろうか。

『シェイプ・オブ・ウォーター』

『ボーダー 二つの世界』


以下ネタバレを含む:『動物界』が描く人間社会の真実

かってにこの映画のジャンルを異種混合物譚と名付けた。人間と他の種が交わり、或いは関わりそれによって物語が進行するジャンルを指す。

ただ、ハリウッド系のようなアクション、スリラー、ホラー、SFではなく、理由は何であれ交流することで生まれる関りがストーリーのメインとなる物語をボクは言っている。設定モノでもある。

異種混合譚の特徴は、差別と真実の愛だ。
人の本質を試される。

そもそも人は超大昔何らかの「動物」からの突然変異で人間へと進化しだした。それが「逆の突然変異」で「動物」へと戻ってもオカシクナイじゃなかという暴論は、全く「ゼロ」の可能性を想像するより容易かもしれない。
まさに暴論だ。w

ならば、やはりショッキングながら一つのメタファーとして捉えこの映画を観てみるのが正解なのだろう。

異種混合物譚の特徴: 差別と真実の愛の物語

一緒に住んでいて愛していた人がある日突然交通事故に合い、障碍者となり、顔もグチャグチャになり、さらに今後何年生きるか分からない。加え事故に合ったことで何らかの細菌に感染し、人に移すかもしれないような状況になる。
人の人生とは、ある日急に変化が生じても全くおかしくないものなのだ。
それに耐える心構えがアナタはできているのか。
アナタは愛する人がそんな状況にあっても愛することができるのか。
許容することができるのか。

体験者こそ許容できる。
近しい人ほど理解しやすい。
未体験者こそ許容できない。
想像できない人ほど理解しにくい。

ADHDと『動物界』: マイノリティの視点から見る作品世界

ADHDの女子が最初から食いついたのは偶然ではなかった。何かを感じたのだろう。そして、彼が変異しつつあっても受け入れられたのは彼女だからこそ。普通の人とボーダーとも言える彼女は偏見がなく人を見ることができる。もしかしたら「普通」の人がこの映画を観ても共感できないのかもしれない。
「普通」の人ほど残酷だ。

「普通」と「違う」の境界線: 『動物界』が投げかける問い

結局、「普通」と「違う人」との境は何だろう。
その中で真の愛を見つけることをするためにはどうすればいいのだろうか、が命題となるのだと思った。恋愛であれ、家族愛であれ。
もちろん「普通」は見た目では決まらない。
変態は「普通」じゃないのだろうか。ダメなのだろうか。
ましてや差別すべき存在なのだろうか。
見かけが変態的なら差別されても仕方ないのだろうか。
我々はとかく「普通」を重視する。
特に日本人は。

かつてハンセン病が流行った頃国はどのような対応を取っただろうか。ボクはその手の情報に詳しくなくニュースで知る程度だが「動物界」を想起せずにいられない。

近しい人がハンセン病のような病にかかった時に我々はどのような態度でいられるのか。奥さんと息子が罹患したこの映画の夫のような揺るぎない愛を持って対応ができるのだろうか。

『動物界』の魅力: 独特な世界観に惹かれる観客層分析

またこの映画では、罹患者側から見て「普通」の人からの自由の獲得もテーマでもあるように見受けられる。
動物になってしまうという感染症にり患してしまい、その事実を受け入れられない現実から、怒り、絶望、許容、そして自由の獲得と。
一旦なってしまえば、その時点では治る見込みがない以上、死なないならいっその事受け入れてしまうことが自由の獲得となり、人間が抱えている現状の様々な拘束から自然への回帰が待っている。
心の奥底で誰もが実は望んでいることかもしれないが、現状ではできない。それを病に罹ってしまえば仕方なく行えてしまう。

この映画に惹かれる人はやはり何らかのクセを持っているのではないのだろうか。

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