映画自評:「ニューヨーク・オールド・アパートメント」は人間の欲と醜さが表出しているが、希望もある

「正人」の日記

シネ・リーブル神戸に「ニューヨーク・オールド・アパートメント」を観に行った。内容について何の事前情報なしに映画を観たが、結果的に「ブルー・バイユー」系の映画に他の要因が加わった形の結構複層的な構成の映画だったなと思い、後後調べてみると監督は、この作品で初長編作品デビューと知り、更に驚いたところである。
構成なんか斬新でとても新人とは思えない!
以下ネタバレもアリ。


主人公家族の生い立ちやそれぞれの個性なり、いわくなど語りたいことが多くあるだろうが、初めから多くを語らないのがいい。話の展開の中で徐々に分かってくるだろうから。
駄作の多くの失敗例は説明しすぎでストーリーの流れを崩してしまうことにもあるだろうが、今作品はそれを避けた形だ。

物語のメインストーリームとなる移民問題を柱にし、大都会でややもすれば埋もれてしまいがちな存在である不法移民者たちが必死で生き抜く姿だけだと普通の話になるところを、恋愛、青年期への成長譚、兄弟譚、家族愛、大都会あるある話、女性の不当な恋愛話、と様々な層の話を重ね映画としての厚みを、ストーリーが進むにつれ増していく。
そのための構成も良かったと思う。
最初に悲劇的な結末の予想を見せておいて、緊張を促すのは正解だったと思う。もしこの構成がなければ、最初から見ていて怠い展開が続いただろうから。

移民問題の不条理な環境は、全世界であり当然日本でもあり問題視されている。新聞でも報道されているが、あまり注目度は高くないような気がする。
亡くなった方がいてしばらくは注目されるが、その後は関心が薄れるようだ。問題が解決したかどうかは関係なく!
このようなテーマの映画こそ日本で作られるべきであるが、作られてもヒットはしないのだろう、残念ながら。



話しを戻すが、そもそもペルーの方々の国民性を知らないのだが、彼ら双子の特性かペルー人の特性か、強制送還された割に悲壮感を感じさせない。
これが日本人であれば、「もう人生終わった!」感が出る終わり方の映画になるだろう。だが、彼らには何故か希望を感じるし、いつかまたニューヨークに戻っている予感を感じさせる。
叔父に家を奪われ、お金を無心する生活を自国ペルーで送ることになっても彼らの心は決して折れているようには見えない。むしろ、彼らのような若者が将来の成功者となるような気がしてならない。

映画から一気に記憶が現実の過去に飛び、かつて一緒に仕事をした中国人の若者との会話に繋がる。彼は言った「日本に留学したがお金がなく、一日一食、ご飯と卵だけで一年を過ごして頑張ってきた。最後には自分の息が臭くて吐き気がする程だった。」と。
彼は日本のビックな会社の取り締まりまで行って、その後自立した。

再び映画に戻る。
さて、クロアチア人の彼女は悪人なのだろうか。
彼女も必死で恋をした。
純粋に愛したはず。
愛する人のためにプライドを捨ててしたくない仕事をしていたはず。
彼女のアパートメントも質素だった。
商売のためのドレスや靴は必須だったが、最低限の生活を送る覚悟はできていたようだ。
自衛のためのナイフ術が愛憎半ばする術に使われたことに事実を知っている我々はどれほど批判できるだろうか。
英語クラスで無興味に戦争に関して質問するアジア人に対し、マジメに答える彼女が本来の彼女じゃないだろうか。

さて、内容知らず、期待もせず(失礼!)観た映画だが、自分的には意外とヒットだった。監督さんには次作も注目したい。



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