映画自評:「ビヨンド・ユートピア 脱北」を観た。命を越える行動をとる人々を讃えよ!

「正人」の日記

中々見ることができなかった「ビヨンド・ユートピア 脱北」をようやく観ることができた。
ここ最近、世間ではドキュメンタリーに人気があるように思えるが、ドキュメンタリーにも、本当のドキュメンタリーと、ドキュメンタリー的な感じモノとがあるような気がしてならない。ドキュメンタリータッチというか…。
初めからそう紹介されていればまだしも観ているうちに分かるのは残念感が激しい。
ドキュメンタリー映画のわりに長い期間ロードショー上映されていた。おかげさまで観ることが出来たのは幸い。

以下ネタバレあり。


まず最初にこの映画の監督、スタッフ、出演者、裏で関わった人々、何よりもキム牧師に敬意を表したい。この映画が公開され有名になってしまうことで彼らに命の危険が及ぶことは考えられるだろうし、それが想像できない人ならこの映画を観る価値はないだろう。断言。

ナレーションによると再現Vもなし、出演者の身の安全を守るための情報は伏せる、と緊張感漂る雰囲気と撮影のドキュメンタリー性の徹底さを伺える
開始から始まった。
WOWOW

映画は、大きく言えば
北朝鮮を語る脱北済み脱北者へのインタビューと現在脱北中脱北家族現地同行撮影、息子を脱北させようとする脱北済み母親同時進行撮影(韓国側)の3例とを交えた構成だ。

メインストーリーとなる家族の脱北同行撮影は、それこそ手に汗握る、悲嘆な未来を想像してしまい涙ぐむ辛い行軍となるが、ドキュメンタリーであり、結果がある程度最悪な結果ではないはずと思ってはいても、ハラハラが止まない今までにない映画経験であった。
ドキュメンタリーの力だと思った。
決行する家族はする理由があるが、同行する人にそこまでの(命を懸けるほどの)理由があったのか?
ブローカー(金のため)
撮影隊(使命感)
牧師(亡くなった我が子のため、牧師として)
それぞれに明確な本人なりに納得する理由があったとして、そのために「命を懸ける」という明確な行動指針をもって行動している人たちに眩暈を覚えた。ボクにはない…。

そもそも元凶があるから。
彼らは「国」が悪いと言っていた。
「アイツ」が悪いと個人を名指しで悪いとは言わなかったように思う。この点が不思議に思う。確実に個人が悪いのに。
人によっては、支持する人がいるからアイツだけの問題じゃないというのかもしれないが、全く以て日本人的発想だと思う。



息子を脱北させようとした母親は自らが脱北経験者だからこそ、危険を承知で息子を脱北させようとするが、映画内では思い道理には事が進んでいない。脱北の多くの例が失敗例で終わるように息子の例もその悪い方の例で終わるのかもしれない。失敗は、ただの失敗で終わらない。「死」をも意味する。
十分承知で挑んで、十分覚悟していた。それでも彼らが思っていた「ユートピア」にいるよりマシだと思ったからだ。

一回視点を変えよう。
ブローカーはなぜ存在しているのだろうか。
ボクも中国駐在中、中国人に違法ブローカーがいて人身売買ブローカー(工場での大量雇用で)や、工場の廃棄物売買ブローカーに間接的にお世話になったことがあり、彼らの存在を知っている。彼らは共産党下において違法な言わばアンダーグラウンドな存在であり、彼らにとって一番大事なのは「お金」で信頼できるのは「お金」なのだ。
それぞれ得意分野において活躍の場があるが、彼らが活躍できるというのはその社会が危険を顧みずお金で動くブローカーを産む素地を持っているということ。つまり、端的に「命=お金」の社会なのかもしれない。

彼らはいつもピリピリしていて、お金に五月蠅いし、少しでも儲けられるなら儲けようとする。そりゃそ~だ。いつ死ぬか分からないからだ。それを痛いほど理解しているからだ。一つのミスが死につながることを身をもって知っているからだ。

脱北経験者から聞く北朝鮮の現状は、また聞きで聞く北朝鮮情報より過酷で熾烈だった。映像もあり貴重。知人の在日の人から聞く北朝鮮情報では左程過酷ではなかったが、彼も洗脳されていたのだろうか。ガザの酷さもニュースで最近知ることになるが、ガザより近隣国でこれほど酷いことが行われているとは日本国民全員が知ったほうがいい。

何事においても情報は大事である。
正しい情報。
偏った情報ではなく。
仮にこの映画が一方的な情報であったとしても、今まで他方からの情報が多かったので、この手の情報がもっとあってもオカシクはない。

改めて、この映画の制作者、そしてなにより、脱北者の支えとなっている牧師には敬意を払いたい。
なによりなにより、お気をつけて。



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