映画自評:「市子」「ある男」「ある行旅死亡人の物語」それぞれの物語で語るべき物語と語りたくない物語と。

「正人」の日記

自分には潜在意識化に失踪願望的なモノかそれに似たような願望、もしくは出生に関する暗に不安症みたいなものが予てからあるのだろうか…。

つい最近「ある行旅死亡人の物語」という本を読んで感想をUPした。
「ある男」は小説は読んでいて、これを機会にAmazonプライムで映画も観た。
「市子」は上映期間中に観たかったがどうもスケジュールが合わず今回Amazonプライムで見ることが出来たのでこの機会に観ることにした。
自分はどうもこの手のストーリーに惹かれる傾向があるようだ。

三作品が全部一緒の系統だという大雑把な感想を言いたいのではない。状況において一致するところがあるので、気に留まるというかんじ。

と言いつつ、共通するものは「どこの誰か分からない話」、といったところだろうか。ちょっとだけ深く立ち入ればアイデンティティ問題ともいえよう。
この三作の表面的な「どこの誰か分からない話」という共通点だけで一緒に語るのは非常に危険だ。全くそれぞれのテーマが異なるからだ。表層的な事案だけに目が行ってまとめてしまう危険性だけは避けたい。

にも拘らず敢えて今回一緒に語ろうとしたのはなぜか。

作品がそれぞれが本来持つテーマに加え、やはり
「ある男」も「市子」も差別や劣悪な家庭環境があり、真摯に求めていたものは愛であって、平和な家庭であったはず。
だが「ある男」は微犯罪と嘘を「市子」は人に言えないほどの犯罪と嘘をつく過去があり、さらに「市子」は自らの未来のために犠牲を強いるサイコの面も持つ。
一方、「ある行旅死亡人の物語」の死亡人はかなりの疑いをもたれるわけだが、真相は闇の中にあるまま。
斯様な状況に合って、それぞれが身元を隠すという行動に出るという一般人とは異なる人生を選択した点が共通点だ。

「ある行旅死亡人の物語」のように「ある男」や「市子」のような身分を消すのが映画のような特殊な行為ではなく、現実として有り得る世界が我々一般人のすぐ隣で実はあり、その起因となった理由が様々でも実際社会での問題となっているのを知らなければならない。

ボクの気になる点は行為に至った結果が同じく身元を消すということ。法に触れる形になってさえ厭わない行為であっても自分の過去を消し去りたいという気持ちと行為、行動。

きっと、100年以上前なら、場所を大きく移動するだけで人生のやり直しが利いたのかもしれない。
しかし、便利になった現在では、逆に人生をやり直しするときにおいては決して便利になったとは言い切れない。
作品本来のメインテーマより、行動において現代では異質と感じられる同じ行動をとった、しかし本来昔の人はリセットのためなら取っていただろう行動がボクにはとても気になるのだ。

因みに「家系図」を大切に思う人がいるが、それを大切にしてどうなんだろう。
100年先が分かると凄い? 1000年先だともっと凄い?
でも、その人達も101年前は分からないんでしょ?
結局、みんな放浪してたり、氏が分からなかったり、…。

さて、次に今回「ある男」「市子」をAmazonプライムで観たが、それぞれを単体で映画として感想を述べてみたい。


映画として「ある男」を観た場合、時間制限がある中でかなり小説世界を再現できていたと思う。小説との構成を変えてでも最後のシーンは印象的に残すことで「ある男」の人としての行動の謎を解けたわけではない印象を植え付けたように思えた。
構成で最後にレストランの奥さんのシーンとバーのシーンを入れることで、誰しもが「ある男」になりうる可能性を示唆しているように思えて良かった。
小説では大きく「愛」がテーマと作者が言うように映画でもそこはしっかりと観ていて印象付けられた思いがある。少年の演技、涙には観ていてウルっときた。それと、大事な時には柄本さんだね。
監督の手腕が際立った作品と思えた。

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片や映画として「市子」を観た場合、事前の評判が良かったので期待をしていたのだが、ボクとしては突っ込みどころがあって冷静に通してみることが出来ていた。
同日に「ある男」と観たのでどうしても比較しながら観てしまっていた。
また、映画「あんのこと」も数週間前に観ており、どうしても家庭環境を比較してしまう悪い自分がいた。比較すべきではないのにね。
さて「市子」には映画だからこそ知れる裏側の「市子」と表面上の「市子」がいるが、途中までは彼女に共感していたはずが最期の最後に共感できない「市子」が出てきてしまったので、どうしても戸籍が欲しければ「ある男」に方法を聞けばよかったのに、なんて訳の分からない呟き迄出てしまう始末。w
遺棄の謎も中途半端だし、彼氏の方が刑事より先回りして情報収集が上手だし、ボクとしては「市子」はどうもスッキリしないストーリー展開だった。



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