監督のキャスト選出は秀逸である。
役どころにピタリとハマる役者さんたちが素晴らしい。
役者さんの演技力と監督のキャスティング力の賜物がこの映画の成果と言えると思う。
幸せな生活を送っているはずの主婦が徐々に壊れてくのは、それぞれの「思い通り」に行かなかった生活に小さな歪みが徐々に入り次第に大きくなって修正が利かなくなってしまい、その「うまくいっていない現実」を認めようとしないことで取り返しのつかない結果を招いてしまう。
でもこれは、ごくごく一般家庭の一般主婦にも起こりうる日常の愛の事件だろう。
以下ネタバレを含む。
不審火が狼煙のように立ち上がり、カラスが絡みつき、不穏な様子がまとわり始めるが、これは終わりの始まりの合図だったかのよう。
だが、最後まで見て分かる通り酷な言い方をすると彼女の不穏な夫婦生活は彼女自身がキッカケ作りを行っていたかのようでもある。
つまり、「生まれることのなかった我が子の着衣を床下に埋める」という些細な異常行為が後の問題行為を生む遠因とも思えるからだ。
言いづらい家庭内の雰囲気があったのだろう。だからこそ、内緒でそのような行動を取ったのかもしれない。
嫁姑間で関係性を必死で保とうとしていても所々でミスコミュニケーションがみられる。
昔ながらの価値観も持った外見は人が良さそうな姑。もっと明らかに悪そうな姑なら初めから対処はできていただろうが、良さそうな分対処がしづらいだろう。この辺りキャスティングが上手いと思う。母子とまさにベストキャスティング。
床下に埋め込む彼女の忘れきれない思い出。妊活を目一杯していても叶わず、将来の不安をリフォームにかけるも夫も乗る気になってくれず、浮気の疑いを常に持っていながら確証が取れないままな不安な日々。
そんな中唯一の心の支えの「石鹸教室」も突然の終了を告げられ、助けの梯子を外される。
彼女の愛の執着は、行方不明の猫であり、生まれることのない我が子であり、去っていこうとする夫である。
夫が去ると分かり、その原因が浮気相手の懐妊だった。
姑の心の内も夫の過去も分かってしまった。
唯一生まれることのなかった我が子の着衣だけが心のよりどころの彼女には、暴走する行為にストップはかけられない。
彼女の暴走行為とは、
チェーンソーで我が家の床下を切る、柱を切る
ホテルのカフェで大声を上げ注意を受ける
浮気相手の家を突撃する、詰め寄る
警官の職質を振り切る、走り抜ける
犯罪未満の行為だ。
しかし、浮気相手の家では家を出る際ドアをバタンと力強く締めたドアの後に部屋の中で大きな物音が聞こえた際は躊躇しながらも心配が先立ち部屋に飛び込んでしまう人の好さが出てしまっている。
さらに、普段誰も掃除をしないゴミ捨て場を掃除していることに対し「アリガトウ」と感謝され、その言葉で泣き崩れてしまう。
彼女は孤立していて、小さくとも愛を欲していたのだったのだろう。
タイトルがかようなタイトルだとしても、
彼女の暴走行為があったとしても、
彼女においてそれ程乱暴であっただろうか。
ボクはそう思わない。
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